東京地方裁判所 昭和38年(ワ)1092号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は被告銀行との間で昭和三六年二月二八日預金名義人窪田佳子、窪田幹雄名義で二口合計金四四万円の一ケ年の定期預金し、満期になつたのでその払戻を請求すると主張した。被告はみぎ窪田佳子、幹雄名義の定期預金の事実を認めたが、本件定期預金の証書中に定期預金債務は証書と引換えに支払う旨の約款が記載してあつて、被告銀行は定期預金者とみぎ趣旨の特約を結んでいる。それ故仮に原告は真実の預金者であつても、被告に対し前記二通の定期預金証書を交付しないから、被告は本件債務の支払義務はないと抗争した。これに対し原告はかりに定期預金証書中に前記文言があつたとしても定期預金証書が証拠方法たる性質を有するに過ぎない以上、原告はたとえみぎ証書を提出しなくても自ら預金者であることを証明することによつて預金債権を請求しうる旨主張した。
判決は被告主張のような特約があつたとしても、預金証書の存在は定期預金の指名債権たる性質を毫も変更するものでないから、預金者が証書を紛失した場合等証書の提出が事実上困難な場合は自己の預金債権の存在を別途立証するかぎり必ずしも前記手続を必要としないものと解すべきである、として被告の抗弁を排斥し、つぎのとおり説明している。曰く。
「被告は、前定期預金契約を結ぶ際、この預金証書と引換に預金を支払うことを特約し、右証言にもその旨記載されている旨抗争するのでこの点につき審究すると、証人河名静江の証言によれば、本件二通の定期預金証書には、定期預金規約として被告主張の趣旨の記載があることが認められる。従つてこの記載は、預金契約の内容として当事者を拘束すること疑を容れないが、その趣旨とするところは、銀行が有効な弁済によりその責任を果たすための手段とする点にあり、預金者が証書を紛失した場合、事実上提出することが不可能乃至困難な場合等においてもなおかつ預金証書の提出を要するものとした趣旨ではないと解すべきである。けだし定期預金証書は、預金債権の存在を証する単なる証拠証書にすぎず、もとより受戻証券ではなく、預金証書の存在は定期預金の指名債権たる性質を毫も変更するものではないからである。従つて預金者において前掲のような事情から、預金証書提出の方法によらずして、自己の預金債権の存在を、別途証する限り、必ずしも前記の手続を必要としないものと解すべきである。本件において、定期預金証書の所持人河名静江が、原告の証書引渡請求を拒絶する意思を明らかにしていることは、同人の証言により明らかである。してみれば原告は預金証書提出の手続を経ずして預金の返還を請求できるものといわなければならない。」